2023/11/17 23:18

「メダカだけでなく、他のサカナたち、鳥たち、水生昆虫も、植物もみんな必死に生きているわけ。出来ることなら彼らの居場所を奪うような農業はやりたくはないさ」

「それは、めだか米のお客さんにも喜ばれるからね。だから、休耕田を利用して、メダカやカエルの池とか、希少な植物の移植田なんかも造ろうとしているんだよ」

「米づくりは、水が大切。それと、どれだけ田んぼに通い、足を踏み入れたか。それも美味い米のためにはとっても大事なんだよ。根っこがしっかりするからな」

「農薬は出来るだけ使わない。全国の米どころでは30成分ほどの農薬を使うらしいが、私らの米は3成分だけ。草取り、大変だけどね。テデトールがいちばん安心だろ」

「ここでは、居て当たり前のメダカだが、いつの間にか県内唯一の野生メダカの生息地になってしまった。豊かな湧水と、素掘りの水路が彼らの命を支えているんだろうね」

「古老から話を聞くと、足柄平野の米は、昔、西郡米(にしごうりまい)と呼ばれ、もてはやされたらしい。天領ということもあって、江戸の寿司米として人気だったとか」

「酒匂川は東海道筋ではいちばんの急流だから、酸素の巻き込みが多いんだ。しかも、上流で取水されるので、水は清冽なまま田んぼに入ってくるんだ」

「先祖代々、守り続けてきた田んぼを、自分の代でほっぽりだすわけにはいかないさ。その思いが私らを突き動かしているのかもなあ」

「桑原のめだか米のことは、農水省の生物多様性戦略検討部会で報告されて、そのあと、環境省がSATOYAMAイニシアティブとやらに取り上げ、世界195の国に紹介したらしいんだ。私ら、そんな立派なことをしてるとは思ってもいなかったから、もう、びっくりだったよ」